合法化州の増加

大統領選は陰鬱でしたが、州投票での大麻合法化が進んでいます。

www.theguardian.com

 

日本の旅行者にとっても馴染み深いカリフォルニアでの嗜好用大麻の合法化をはじめ、マサチューセッツネヴァダ、メイン各州で成人向けの大麻は完全に合法化されます。

また医療目的の大麻利用もノースダコタアーカンソー、モンタナ、そしてフロリダでも認められます。

カリフォルニアは以前僅差で否決された合法化投票Prop19の雪辱を果たした形となりました。これまでの米国の動向の中でも、一番大きな部類の動きです。

 

一方で、トランプは昨日書いた通り、こうした合法化の流れには冷淡な態度をとっていて、各州それぞれが勝手にすればいいという立場を守るかどうか、それとも連邦法を盾にとって、各州に圧力をかけてくるのか、まだ判然としません。少なくとも、彼は全土での合法化には明確に反対しています。

 

また副大統領のペンスは以前から、頑迷な大麻規制論者として鳴らした人物であり、司法長官にはあのニューヨーク市長、ジュリアーニが抜擢されるのではとも予測されています。ジュリアーニは、「ニューヨーク・クリーンアップ」「ブロークン・ウィンドウズ(小さくとも割れた窓を放置するな!)」を標語として黒人とヒスパニックを事実上狙い撃ちした強硬な警察政策を行ったことで記憶に新しく、微量のドラッグ所持や軽犯罪でも容赦しませんでした。

 

トランプは二日目から既に、オバマケアを後退させ、富裕層への減税を行おうとする言動を早くも行っています。こうした差別主義、強いものをますます擁護し、弱者を打ち捨てようとする「イメージだけの改革」は、日本ではかつて東京の石原都知事が似たようなことをやっていましたが、石原と比べてもトランプの影響は巨大であり驚愕します。

ファック・トランプ

米国の政治結果について色々書きたいことはあるのですが、

とりあえず米国選挙のせいで陰惨な気分になっていて、あまり気分があがらないので簡潔に大麻問題についてだけです。

 

Marijuana Policy Projectの過去記事をそのまま紹介します。

大統領選は日本ではあまり報じられませんが「緑の党」(環境主義)と「リバタリアン党」の二つが出ています。私は理念的には緑の党民主党ならサンダースを支持していて、ヒラリーの支持者ではありませんが、一般論としては共和党よりも民主党のほうが(ブッシュよりもオバマのほうが)ましだと思います。トランプだけはもちろん最悪だと思います。

理由は簡単で、彼が人種差別主義者で、同時に社会的弱者よりも「強いナショナリズム」を優先させているからです。

日本の報道ではしばしば「経済政策の今後は!」といったことが話題になっていますが、やっぱり日本はこのあたり他人事だなあと思います。米国の記事ではもっぱら人種差別の扇動が今後いきつくのはどこなのかということが、まず第一の論点です。今ストリートで日々暮らしていて、警察のStop and Frisk(職質・身体検査)を頻繁に受けているカラードや、米国で生まれた子供と強制退去処分で分断させられそうなチカーノの親にとって、果たしてカラードが今後ますます「二級市民」「不穏分子」扱いされるのかどうかということが第一に問題で、そして政治にとって一番大切なことは、「どこに道路を造るのか」といったことより、まずこのことだからです。

 

さて、MPPによるとこれらの候補者のガンジャ・グレードは次の通です。

ヒラリー候補: グレードB+

 彼女は医療大麻の進展を一般的に認めていて、嗜好用大麻の合法化を行ったコロラド州ワシントン州の投票結果を尊重し「これは民主主義的な実験」であると述べています。

 また彼女は、現在スケジュール1に分類されている規制をスケジュール2に入れることで医療大麻の研究の規制を外すことを提案しています。

 

リバタリアン党のジョンソン候補: グレードA+

 ジョンソンは、医療大麻および成人が大麻を利用することに関して、規制を撤廃するように求めています。連邦法における大麻のスケジュール規制を撤廃すると公言しています。

 

緑の党のステイン候補: グレードA+

 ステインは連邦全土における医療大麻の解禁と成人の大麻利用の合法化を求めています。彼女は反対論者から次のように質問されました

 反対派「大麻は危険なものではないのですか?」

 ステイン候補「ええ、危険なものです。なぜならこれは法的に違法なものだからです。アルコールよりも危険性が少ないのにもかかわらず違法にされていること、この法律こそが危険なのです」

 

ドナルド・ファック・トランプ候補: グレードC+

 トランプ候補は、かつて(ジョークとして)全ての麻薬を合法化しろといったことがありますが、しかし最近の発言では、大麻の合法化に反対しています。

 彼は医療大麻については個々別々の州において、それぞれ医療大麻規制について考えればよいという立場です。

 

ソース元: 翻訳は酔っぱらいの意訳です。

2016 Presidential Candidates - MPP

 

EUにおける白人至上主義や、人種差別論者の台頭はここのところ、とても気にかかっていました。日本の政治に最も直接的な影響を与える米国の選挙で、こんなことになってしまって、トランプと彼に投票した米国白人には怒りしかありませんが、一方で、私たちはそれでも、彼らを批判しながら、マイノリティと共にONE LOVEと言い続けなければならないと思います。

www.youtube.com

Tom Hayden: 米国の反戦運動家、1999年の動画。

 

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秋のマーチ、ありがとうございました

11月6日のPeaceful March 大阪 2016秋は無事終了しました。

天候が不安だったのですがこれも問題なく、終始和やかなムードで終了しました。

来ていただいた全ての方、アーティスト、Reggae Bar Whatever、スタッフの皆さんありがとうございました。

 

ライブはDora a.k.a. Queenの圧巻のパフォーマンスから始まって、Original Koseの軽妙なライブ、Narusweetの怒涛のソング、最後はアチャコさんらの宇宙的平和の歌唱で締めくくりました。

 

当初予定通り、イベント自体は収益度外視で赤字だったのですが(スタッフ有志が少し持ち寄っています)、日本のアングラ・ガンジャ文化の進展にとって、とても有意義なパーティだったと思います。ありがとうございました。

陰謀論と大麻

本日のお昼から大阪マーチです。 

 

さて、高樹事件以降、色々と大麻関連の記事が出ていて、多くのユーザーをもつタブロイド記事のロケット・ニュースでも紹介されています。

rocketnews24.com

 

要するに、「石油産業の陰謀」で大麻が規制されたとかいうアレなのですが、このお話特に日本の大麻合法論界隈で、非常に古くから言われています。

とはいえ、世間的にはこうした陰謀論は、「大麻は全ての病気を完治させる奇跡の草」みたいなお話と一緒で、正直「大麻合法化とか眉唾」だと受け取られる要因になっているとも思います。カンナビスト@関西は、以前からこうした単純な「一つの悪人がいて、それが大麻を締め付けた」といった陰謀論や、「大麻は神の草」といったような話とは距離をとっています。

 

そうではなく、大麻規制は複合的な、20世紀における人種や異なる文化に対する偏見/ステレオタイプ、それから官僚制の論理、保守派の政治的な扇動、80年代以後のレーガン時代に特徴的な、「ゼロ・トレランス」の警察方針、政治権力をあまり批判しないマス・メディアの体質、これらの相関によって生じてきたものです。

要するに、今まで人間社会が行ってきた「人種差別」や「同性愛者バッシングとソドミー法」だとか、あるいはハンセン病者への隔離政策だとか、そういった「単一の原因には還元できない」、社会全体の複合的な要因によるものでしかありません。それは複雑な話で、私は複雑なことは複雑なようにしか説明できないのだと思っていますが、これを単純化して「石油産業とユダヤ資本の陰謀」みたいな物語に還元するのは、あまり知的には良くないと思っています。

そもそも、本当に石油産業が何でも自由にすることのできる超巨大な力を持っていて(実際、経済的に大きな力をもっていることは否定しませんが)、世の中の全てを自由にコントロールできたなら、普通に「奇跡のエネルギー」である大麻も、一緒に自分の傘下にいれてしまって、大麻産業を合併してさらに巨大化してしまえば良かっただけの話です。なぜわざわざ、周りくどい方法で大麻を規制する必要などあるのでしょう。そして、これほど巨大な組織が総力を挙げたのであれば、どうして末端の一民間人がその「陰謀」に気付けたのでしょう。

 

こうしたいわゆる陰謀論の出典は明らかです。戦後もっとも代表的と言っていい、大麻合法化論者の一人、ジャック・ヘラーです。彼は、THE EMPEROR WEARS NO CLOTHESという著作で、今日本で浸透している「石油産業の陰謀論」を説いて、一部に熱狂的な信奉者を得ました。彼はもちろん、偉大な社会運動家で尊敬すべき点もありますが、歴史家でも社会学者でもない、歴史的経緯に関する議論としてはアマチュアだと思います。

 

この説は例えば日本で有名なオカルト科学の医師、内海聡の最近の本などで焼き直しされています。実際、内海のこの本は、おそらくジャック・ヘラーの当該著作を元ネタにした、日本のWeb上に出回っているコピーのお話を参考にして、さらにそのままコピーしたような本で、一体オリジナルが何なのかは一見して分からなくなっています。シュミラークルです。おそらく日本で、このヘラーの議論を初期に広めたのは大麻堂の前田さんのブログでしょう。現在日本のWeb上に流通している「石油産業の陰謀」論は、おそらくヘラーの見解を宣伝した前田さんの見解が繰り返し、さらに宣伝されていて、それが今回のロケット・ニュースの記事になっているものと思われます。

一部の熱狂的ファンに対してはともかく、内海医師は一般的に、アカデミズムからは全く無視されているというか、正直オカルトだと思います。

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前田さんは当局の圧力に長年抗してきた尊敬すべき実業家であり、日本の大麻合法化論を進展させた功労者だと思いますが、この点に関しては学問的な解釈の話であり、私は研究者としてこの点だけは譲れないので、彼がすごい人であるというのとは、これはまた別の話です。

 

一方で、日本ではまだ翻訳が出ていませんが、欧米の大麻法制史研究ではきちんとした歴史学社会学の研究書が出ていて、私はさすがにそちらのほうが学問的に信頼できると思います。例えば代表例として、R.J.BonnieらのMarijuana Convictionがあります。日本に翻訳があるものはH.S.ベッカーの『アウトサイダーズ』くらいです(これも巻末に若干の註釈があるだけですが)。

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これら研究書群を概ね確認したところ、大麻規制の歴史は概ね次の通りです。

(1) 20年代の禁酒法が前史としてあり、これがその後のアンスリンジャーの麻薬取締局の前身となる。

(2) 30年代になって黒人文化としての「ジャズ」が流行し、またチカーノの米国移民も進む、彼ら/彼女らのマリファナ喫煙の文化が偏見をもって見られる。

 ⇒ ここまでは「陰謀論」の見方も同じです。

(3) 世間的に未知の「肌に色のある人々の文化」は格好のタブロイド紙のネタとなって、売れるニュースとされる。

(4) こうしたタブロイドの記事は、すぐに三文映画の題材ともなり、例えば有名なLeefer Madnessなどの扇動的映画は、こうした文脈の中で用いられた。非常に誇大に「大麻と狂気」が結びつけて語られた。

(5) 各州で大麻規制法が制定されはじめ、特にプロテスタント保守層を支持票田とする共和党は熱心に、「新しい脅威」としての大麻をバッシングしはじめる。その後マリファナ課税法が制定され、全米で売買が事実上禁止される。

 ⇒ 一方で、戦争がはじまると、今度は「新しい脅威」がファシズムとなり、これは確かに現実的な危機であったので、「戦争」に衆目が集まり、大麻への注目は去る。

(6) 戦後、冷戦構造が始まり、同時に50年代の「新しい世代の文化的反抗」が始まる、ここから50年代ビートニク、60年代ヒッピーへと運動が展開。その過程で再度、表象としての大麻が槍玉にあげられ、規制運動が再燃する。

 

米国においてはとても大雑把に、上記のような文脈があります。エネルギー業界は、30年代から40年代当時、確かにとても大きな産業であったので、「売れる映画」「売れるニュース」に相乗りしてスポンサーとなることもありました。しかし大麻批判だけをやっていたわけではなく、それは当時「一つの売れる事業」であっただけです。もちろんエネルギー業界以外の資産家や政治家も「売れる三面記事」としての大麻バッシングを行っていたわけで、そのことだけを取り上げて「大麻規制は全て石油産業の陰謀」だという物語もできましたが、歴史学的にはこれは過大評価だと思います。

 

実際には、大麻規制はプロテスタントやバプテストの保守派、すなわち米国社会における白人マジョリティの偏見と、その支持を狙い扇動した保守的政治家のお決まりの政治的演出でした。現在のトランプ候補の煽り文句や、あるいは20年代禁酒法、あるいは同性愛禁止法(ソドミー法)と同じく、ここでは「悪の秘密結社」が暗躍したのではなく、人類が幾度も繰り返してきた、どこにでもある偏見と扇動、マジョリティによるポピュリズム、そしてこれに乗じて金儲けを考えるタブロイド紙や映画、三文小説家のメディア・ムーブメントがありました。

これはどこにでもある、ありきたりな物語ですが、その過程は複雑です。 

 

一方で、「陰謀論」を馬鹿にするわけにもいきません。陰謀論は多くの場合「情報を遮断されたマイノリティ」によって支持されてきました。そして実際、大麻規制は厳格な官僚制と法規制、そして政治的演出に用いられてきたので、確かにそれはブラック・ボックスに映りました。ですので、大麻規制への不満を抱えながら果敢に戦ってきたヘラーのような活動家の一部が、こうした「見えない陰謀」の存在を信じるのは、当局と政治的演出がいかにマイノリティから隔絶しているのかを物語るものでもあります。それは裏返しなのです。

ピーター・トッシュも、多くの著名なルーツ・レゲエのアーティストも、しばしば裏返しとしての「陰謀」を語りました、一方で疑う余地なく彼ら/彼女らは偉大なアーティストです。レゲエは音楽史に注目すべき足跡を残し続けており、私はその不服従の精神をリスペクトしています。しかし一方で、レゲエ音楽の一部にある短絡的な同性愛者への嫌悪を私は受入れません。ヘラーが偉大な活動家であると尊敬することと、彼が学問的には支持できない歴史観をもっていると指摘することは両立しえます。そのような尊敬のあり方もあり、そうした多様な受容のあり方は人が自由であることの証だと思います。

 

もっとも古い日本の活動家、ポンさんは「伊勢神宮国家神道に吸収されて、大麻が<日本固有の精神性>を表すものとして神格化された戦中」の出来事を批判しながら、次のように言いました。

大麻が麻薬でも、神権の象徴でもなく、ただの雑草であるというリアリティに目覚めることだ。それは麻、ヘンプなのだ。」(麻声民語、その1)

 

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大麻資本主義

智頭と石垣の事件を受けて、世間的なバッシングが起こりましたが(今も起こってる?)

ちょこちょこ擁護する意見も出ています。

 

こういうのとか

www.itmedia.co.jp

 

これです、ホリエモンも似たようなこと言ってました。

zuuonline.com

 

 

要するに、北米や欧州だと合法化が進んでいて、医療大麻ビジネスや観光産業が潤っている、こうしたリアルな経済活動をみるなら、必ずしも大麻合法化は不合理ではなく、経済的な功利性があるから認めてやってもいい、というお話です。

 

ふざけんな

 

どこかで聞いたお話に似ています、原発が最終的に経済合理性があるのならOKだとか、あるいは経済的に見てもSTOPだとか、生活保護は財政的に問題があるとか、いやいや内需にマイナスはないから認めろとか、そういったお話。

最終的な審級はいつでも、経済的合理性だけです。

 

確かに、観光税収がどうとか財政はどうだとかいう話はとても重要でしょう。そのこと自体を否定するつもりは全くありません。

しかし一方で、こうしたお話は現実に生きている、「逮捕されていく人々の営為」「原発が地域住民に与える影響」はいつでもコスト外です。それらはせいぜい「補償」「刑務所コスト」などの数値に還元されてしまい、逮捕された人々や避難した人々がどこにいこうがおかまいなしです。

本来不可分である人間一人一人の生(individual)は、ここで各種の統計数値や経済的コストに分割され(dividual)、何かが経済的に有用であればその限りにおいて認めてあげようと、このような人々は微笑みながら言います。それでいて逮捕されたのは自己責任だから知らないって?クソったれ。

 

米国の合法化議論でも、こうした問題は議論されてきました。税収面や財政論争が必要なのはもちろんです。しかし一方で、それだけに議論が終始してしまうことは、各州の合法化論争ではほとんどありませんでした。

ここではいつも、大麻所持で逮捕される人々が低所得の黒人が圧倒的に多いこと。戦前から60年代にかけての大麻取締法の成立経緯がカラードに対する人種的偏見に依拠していること。そしてレーガン政権時代に、これらの社会的弱者への「ゼロ・トレランス」が開始され、大量の黒人やヒスパニックがごく少量の大麻所持という微罪で逮捕され、そのまま牢獄に直行させられたこと。

だから大麻合法化の是非をめぐる議論では、いつでも次のような画像が参照されたのです。

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逮捕される人々のうち、白人はわずかに茎の部分のみ。残りはカラードであり、大半が都市か郊外に暮らすアンダークラスです。しかし合法化されたディスペンサリーで高額の「医療大麻」を買うのは白人がめだちます。

これはフェアな法の運用なのか、法それ自体がもたらしている「逮捕された人々の生活に対する影響」とは何か、これが問題なのです。しょぼくれた財政のいくばくかのマネーのほうが、こうした現実に逮捕される人々の生よりも重要だなどと言う人がいれば、それは知的不感症ではないのですか。

 

マネーの観点でのみ社会を捉える通俗的な経済右派は、例えば70年以前のかつて同性愛を禁じたソドミー法に対しても、財政と経済規模でのみ議論をしたでしょう。同性愛を合法化したほうが経済的に合理的だとか、性病治療のコストはこうだなどといった偏見も交えながら。ここでは当事者の人生など、どうでもいいのです。

 

私たちはいつでも、まず人々の生から出発したいと思っています。そしてその上で、法規制がどのように財政と関連しているのか、これは付随する次の問題です。

ご意見歓迎 cannabisty@gmail.com

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俗情とバッシング

www.hochi.co.jp

 

(松本は)「単純に隣住んでる人が大麻やってるって言われたら嫌やもんね。すごいシンプルで人の嫌がることせんで欲しい」と苦言を呈した。

高樹については、これまで複数の本を書いているようで、彼女のライフヒストリーには興味がある。タイトルを一見すると、島薗進らがこれまで的確に探究してきた自足的で個人的な「スピリチュアリズム」の類型にように見えるけれども、一方で今回のような個人史はそのような括りでのみ語れるものでもないからと思って、彼女の本を全て古書店で注文した。そのうち、事件については学術誌でまとまった論考を書こうと思う。

 

この芸人はもともと、安保反対運動に対しても「中国の脅威に対して対案がないなら、反対とか意味がない、反対は平和ボケ」などと言っていたような人で、要するに保守的だといえば保守的なだけだと言えばその通りだと思う。

 

一方で、彼は別に頭の悪い人ではないだろうから、日本で最も売れた芸人の一人として、多数派の空気を読んで、先回りをしてそのマジョリティが代弁して欲しいだろう「本音」を吐露する、そうした役割演技も同時に行っている。ここでの彼の発言は、彼の欲望というよりは、彼が観察した、テレビの前の多数派の欲望の先取りだ。

 

そうしたテレビ的なキャラクターとは別に多分本当のところを言うと、彼は執拗に映画監督として美学的に評価されることを望んでいたように、彼は大衆的であると同時に、高い批評性でもって、前衛的な活動もしている人だと評されたいのだろうとも思う。

もちろん、美学的、批評的な評価を彼は全く受けなかったし、むしろ失笑をかった。その典型的な痛々しい「滑った」場面を、彼のファンでは全くない私はなぜか鮮明に覚えていて、それは「大日本人」の上映会をパリで行った際のコメントであったと記憶している。

当時、フランス政治史において極右の一人として「移民の黒人を叩き出せ」発言で有名となったサルコジ元大統領が、当選したばかりであった。彼はブッシュの身振りを真似していたと評されたが、今から見るとトランプの手法を先取りしている側面もあった。オランドが大統領になる前のことだから、もう10年もたつのではないだろうか。

この時サルコジは少なくとも、レイシズム経済右派の象徴として振る舞っていて、自覚的にそのようにしてフランス白人のナショナリズムを煽り、新保守派の支持を取り付けようと振る舞っていた、だから映画人や藝術家、大学人といったフランスの知識人層からは蛇蝎のように忌み嫌われていたと同時に、知的には小馬鹿にされていたのは自明の文脈だった。いったい誰が、G.W.ブッシュを教養的側面から擁護するだろうか。

 

ところが松本は、そうした映画人の集まる上映会で、時事的なジョークを言おうとして思いっきり滑った、「この映画は、当選したばかりのフランス首脳も気に入ってくれるだろうと思います」。会場は一瞬凍りついて、そのあと失笑が漏れた。観客は松本がブラック・ジョークを言わんとしていたのか、あるいは通約が誤訳をしたのか測りかねていた。そのまま松本は不思議な顔をしながら舞台を降りた。

 

このシーンはとても印象的で、ああこれがもし日本の舞台だったら、それなりに「なんとなく政治について発言したのだろうから社会派というか、そうした関心もあるのか」と捉える向きすらあったのかもしれない。

松本はひょっとしてサルコジが当時の日本の首相のように諸外国に対してマッチョな態度をとり、「断固決然」とした印象をもっていることに第一印象として好感を覚え、特に何も考えずに印象を追認する発言を行ったのだったろうか、あるいは本当に何も知らずに、何も知らなくても政治的発言を行えば笑ってくれると思ったのだろうか。

 

こうした歴史的経緯と政治的文脈についての知的な「軽さ」は、松本が代表する日本のタレント発言の典型例だと、私は思った。

だから彼は今回も、法規制の歴史的・政治的文脈には何も触れずに、ただ「法に違反している→したがって道徳に違反している→それは悪いことで人の迷惑だから迷惑になることは駄目だ」と言った。このような発言においては、ここで高樹が過去10年以上行ってきた私的な物語も、社会科学的な諸外国の施策への検討も、何も必要はない。ただあるのは、彼女が「容疑者」であり(しかも当人が未だ否認している)、容疑者であるということは犯人であり、犯人であるということは悪人であるという、ただそれだけの自動的な個人に向かう非難だ。彼女は、仮に罪が確定したとして、それで彼女自身の行いについて責任を取らされたというのに。

溺れる犬は石もて打て。その通りだ、日本のマジョリティはいつもそのようにして、反射的に他者を断罪し、村八分にしてきた。半世紀も前に神島二郎が「日本的な村社会の心性と、あの戦争の情動的な肯定は結びついている」と評した通りだ。松本はその卑小な心性を、的確に代弁しつづけける。チャップリンブレヒトか、あるいは小津安二郎に憧れた夢を見る、多数派の代弁者の哀しい抜け殻。

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大阪サロン(10月)のお知らせ

関西のサロンが下記日程で開催されます。
カンナビスト@関西では、どなたでも参加できるオープンな場として
毎月最終日曜日にサロンを開いています。

いまのところ秋開催予定の企画について相談中です。どなたか一緒に非犯罪化のためのイベントを一緒にやってやろうという方、気軽にお声かけください。

【関西サロン】
とき:10月30日(日) 18:00~21:00

ところ: 中崎町 朱夏

Salon de AManTo 天人 :: 朱夏

*参加無料、出入り自由

今回のサロンでは、以下のような話をする予定です。

○ マーチの準備について

○ その他参加者がしたい話をなんでも

幹事メール: cannabisty@gmail.com

 

* 11月6日のマーチ、白坂さんの大麻報道センターでも紹介してもらいました、白坂さんありがとうございます。裁判大詰めです。

asayake.jp

 

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